裏社会の住人も群がる“福島原発復興策”

サイゾー 3月24日(土)

──「震災復興には、裏社会の手助けが必要だ」と口にして物議を醸したのは、作家・堺屋太一氏です。現実にはすでに、裏社会が復旧マネーの分配をしています。

「復旧(復興)にはスピードが必要」「平時のように四角四面に法律を適用していては、ことは迅速に進みません。正直なところ、裏社会の人に協力を要請しないと突破できない局面も出てきます」

こう月刊誌上で述べたことが物議を醸し、暴力団排除活動を進める全国の弁護士から抗議を受けたのは、作家の堺屋太一氏です。堺屋氏は、阪神淡路大震災で政府の復興委員を務めた経験から今回の「裏社会」発言に至ったのですが、この発言は福島県の復旧の最前線を的確に反映したものともいえそうです。というのも、週刊誌を中心に既報されているのですが、現実にはすでに裏社会の住人たちは復旧の最前線に根を下ろし、復旧(復興)マネーの配分にあずかっているからです。

「以前から、原発にからんだゼネコンの下請けには、地元の暴力団関係者が深く関与する建設会社が多かった。もちろん、東京電力やゼネコンのコンプライアンス(法律遵守)の建前上、姓の違う親族を社長に仕立てるなど、表立って役員にはなってはいないが、取引先はみんな事情を知っています。福島第一原発事故後、がれき処理、インフラの再構築などで、さらに作業員が必要になって、仕事を仕切るゼネコンが県内外の建設会社に声をかけた。その結果、いまや、ウラでは、複数の有名広域暴力団の関係する建設会社が共存しています。2月には復興庁も発足しましたが、すでに現地では、福島原発の復旧をはじめとする復興マネーを分け合う仕組みができていますよ」

こう語るのは、福島のとある建設会社役員です。政府の復興支援の目玉である約1・8兆円の復興交付金の、決して少なくない部分がアングラマネーに流れ込んでいるというのです。

「そうしたマネーは、復興バブルに沸く仙台のネオン街の飲食店・風俗店に新規出店する軍資金になり、次なる投資に備えている段階です。今、業者が競っているのが、福島県内の土地購入。一山1000万円程度で買えるとあって、物色が進んでいる。自治体が買い上げ評価額を震災前の8割程度にすると決めたこともあって、被災者から安く買い叩いても、最終的には自治体が震災前の8割程度で買ってくれる可能性が高いのですから、おいしいビジネス。しかも、福島第一原発半径20キロ圏内の土地をめぐっては、地元議会の議員や国会議員の秘書たちが暗躍して購入に走り、もはやバブル寸前です」

福島第一原発半径20キロ圏内の土地といえば、原発事故の影響を受けて、放射線量が高い地域であり、政府により「長期帰還困難区域」とする方向で調整が進められている地域です。住民さえもいつ帰れるかもわからない地域を購入に走る理由は、一体なんなのでしょうか?

「実はあまり大きく報道されてはいませんが、この土地、中でも、放射線量が高い長期帰還困難区域を政府が買い取る案が浮上し、現実味を帯びています。しかも、そのエリアには、放射性物質に汚染されたがれき処理のための中間貯蔵施設も建設されるという。購入した土地がその建設予定地となれば、こちらの言い値で政府に買い取ってもらえるだろうというわけです。

環境省によれば、『年間換算の放射線量100ミリシーベルト以上』で『敷地面積は、3平方キロメートル~5平方キロメートル程度』といった条件が挙げられています。そのため、処理業者たちは政府の考える候補地を政治家秘書から聞き出そうと、競争が始まっているのです」(永田町関係者)

「福島に中間貯蔵施設を」――この案は、2011年8月27日、退任直前の菅直人前首相が「中間貯蔵施設を福島県内に設置したい」と突如として理解を求め、福島県知事の佐藤雄平氏が反発したことで、マスコミに大々的に報道されましたが、その後、すっかり表舞台から消えていた話題です。しかし、8月のがれき処理特措法と12月の復興特区法の成立で、福島県内のがれき処理、除染作業(放射性物質に汚染された物質を取り除く作業)も本格的にスタートし、復興に向けて動きだしました。すると、放射性物質に汚染されたがれき処理のための中間貯蔵施設が、どうしても必要となってきたのです。

「菅政権を引き継いだ野田政権は、菅前首相の発言を受けて中間貯蔵施設建設計画を着々と進めています。まず、計画を実際に進めるのは環境省。そこで、民主党の中でキレ者とされる細野豪志氏を内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償支援機構担当)と兼務させる形で環境大臣に任命した。環境省は10月に『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質による環境汚染の対処において必要な中間貯蔵施設等の基本的考え方について』を発表し、12月28日には細野大臣が中間貯蔵施設の設置場所として、『福島県双葉郡内』で『年間換算の放射線量100ミリシーベルト以上』の地域などという概要と『今後、地元自治体と調整して、具体的な設置場所を決めていく』方針を明らかにしたのです」(同)

この計画は「福島県内の各市町村に仮置き場を設置し、約3年間保管した後、中間貯蔵施設に移し30年以内に県外で最終処分する」というものです。ただし、「中間貯蔵施設」とはいうものの、原発政策では「中間貯蔵」とは「最終処分」になりかねないだけに、自治体の反発は大きいでしょう。

「事情は複雑です。福島第一原発半径20キロ圏内といっても、除染をすれば住むことが可能になる自治体からすれば、できるだけ早く中間貯蔵施設が欲しい。ただし、施設が置かれる原発周辺の自治体からすれば、安全性が問われ、自治体そのものの存続にかかわってしまう。最終的には、長期帰還困難区域全体を政府が買い取り、その国有地化した地域の中で『中間貯蔵施設』を建設するということになるのでしょうが、先祖代々の土地と考えている被災した地元住民にとってはたまったものではなく、大きな反発が予想されるのです」(大手紙記者)

中でも双葉郡内では、すでに中間貯蔵施設の候補地として、A町の町長の長男が経営する建設会社が所有する採石場跡地が挙げられているというます。このA町長は中間貯蔵施設建設に肯定的で、採石場跡地をめぐっては、11年、東京の不動産会社との間での売買契約が進んでいたことも一部で報道されているほどです。

とはいえ、これらの土地をめぐる話題は、自治体や被災住民の心情をおもんばかってか、政策論議も事実上のタブーになっているのが現状なのです。

では、こういった状況下において、与野党はどのような原発事故地域の復興案を掲げているのでしょうか? 今回、各党の復興策を比較検討するため「民主党」「自民党」「公明党」「みんなの党」「共産党」「社民党」の復興策、各提言を検討しました。

原発政策をめぐっては、「それでも原発推進」VS「脱原発」といった構図ができるほど声高に旗幟鮮明なのだが、福島第一原発20キロ圏内の話となると口を閉ざすか言葉を濁してしまうのだ。

「民主党のほかには、みんなの党が12月に、特定原子力被災地域土地利用法案(借り上げ・買い取り法案)を提出しましたが、『中間貯蔵施設』という言葉まで踏み込めていない内容で、借り上げ案と買い取り案という2つの案を紹介している程度です。各党とも、いざ買い上げるとなれば莫大な税金がかかるわけですから、慎重になるのも無理のない話ではあります」(同)

中間貯蔵施設建設計画では政府・民主党が一歩リードというところだが、これから地元自治体との調整が始まる段階で、建設のメドは立っていません。しかし、この間にも除染作業は進み、地域ごとの仮置き場は放射性物質に汚染されたがれきでいっぱいになってしまうのです。地元の建設業者の間では、「既存政党ではダメだ。やはり新党しかない」と新しい動きに期待する声が高まっているということです。

「ズバリ、石原(慎太郎・東京都知事)・橋下(徹・大阪市長)新党でしょう。この新党が政権に就いたら、地域分権を主張する橋下氏は『東北州から地域分権を!』と、道州制と福島第一原発20キロ圏内の国有化を宣言する。その上で、石原氏は東京都が岩手県のがれき処理を引き受けたときのようにキッパリと中間貯蔵施設の建設計画に踏み出す。こうした政策を断行できるのは国民的支持を受けた、リーダーシップのある2人だけです」(前出・建設会社役員)

この話には、納得できる部分も確かにあります。例えば、石原都知事は11月から被災地のがれき受け入れを開始しています。ほかの自治体でも受け入れを表明したものの、周辺住民の反発で頓挫中で、受け入れが進んでいるのは東京都だけなのです。

「『皆で協力して、力があるところが手伝わなければしようがない』『(反対意見には)黙れ、と言えばいい』と反対意見を一喝した石原知事ですが、東北地方のがれき処理でリードするゼネコンは鹿島建設。鹿島は自社のスタッフを石原氏の側近に送り込むなど、密接な関係がこれまでも指摘されている。つまり、東北復興は鹿島の繁栄。ひいては石原氏の影響力がますます強まるという構図があるのです」(前出・大手紙記者)

また、橋下大阪市長の政界の後見人、大阪維新の会の顧問といえば、冒頭の「裏社会」発言で物議を醸した作家の堺屋太一氏です。堺屋氏は、問題の記事中でも、首相に求める行動として「道州制への移行の起爆剤となるような東北復興庁を作るべき」と提言しているのです。

「つまり、東北州という形での東北復興をきっかけに、日本経済を回復させようというプランです。府知事時代に電力制限をめぐり関西電力と激しくやり合った橋下氏にとっては、中央政界では、東京電力と対峙することで、国民的な人気も維持できる。やがて対立した東京電力を国有化し、福島第一原発半径20 キロ圏内を国有化するといったシナリオです」(同)

石原・橋下新党での20キロ圏内国有地化と、東北州の誕生という革命的復興計画――。確かに日本経済が回復するのはありがたいのですが、肥え太るのは裏社会の人たちと議員ばかり……という気がしないでもありませんね。

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