カナダバブルの兆候あらわれる

産経新聞 10月13日(土)

先進7カ国(G7)の中で、豊富な資源を背景に好調だったカナダの経済が曲がり角に来ています。中国系や中東系の富裕な移民が不動産投資を活発化しています。主要国が追加の金融緩和に踏み切る中、だぶついた資金も集まりやすくなり、バブル経済の兆候が見えてきたためです。政府は不動産融資規制の強化で沈静化を目指しますが、かつて日本が同様の規制強化でバブル崩壊を招いた状況にも似ていて、かじ取りは難しいでしょう。

北米ではニューヨークに次ぐ規模の金融街を抱えるトロント。市街には、建築中の高層ビルが目立ち、経済の勢いを感じさせます。カナダは2008年のリーマン・ショック後の痛手は少なく、実質国内総生産(GDP)は10年前半から回復基調に乗っています。豊富な資源とその価格高騰が経済を下支えし、ロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)など主要行は、収益の約3分の2を国内で稼ぐ堅実経営を誇ります。「米国のような過剰投資に走る必要がなかった」ためです。

一方で不動産投資が過熱しています。主要都市の住宅価格は、07年を100とした場合の昨年実績でトロント111、ケベック117と高騰しています。家計の可処分所得に占める負債の比率は昨年、英米を抜き、危険水域とされる150%に上昇しました。30~40代の多くが住宅を購入しているほか、積極的に受け入れている移民の富裕層が「買い手として台頭」してきたことが大きいのです。これにより土地価格が高騰しました。

ただ、カナダ銀行(中央銀行)は、急激な景気冷え込みを懸念し、利上げに踏み切れません。政府は、不動産融資規制の強化によるソフトランディングを目指しており、7月には08年以降で4度目となる規制を発表しました。不動産購入の頭金の最低価格を15%から20%に引き上げ、ローンの返済期間を最長30年から25年に短縮しました。この規制を受けRBCは、「バブルは沈静化する」と予想しています。

しかし、日本のバブル崩壊を招いたのも、1990年3月に日本の旧大蔵省(現財務省)が通達した不動産融資の総量規制が発端とされます。その後の日本のように、今後カナダでも物件がだぶつき、価格が急落する可能性は高いと思われます。実際バンクーバーの不動産販売額は8月、前年同月比で30・7%下落しました。

カナダも日本と同じバブル崩壊からデフレの道をたどるのでしょう。「豊富な資源があり、消費意欲は米国並みに旺盛で、そうなるとは限らない」との指摘もあります。しかし、日本とカナダが抱える課題は驚くほど似ています。金融機関の業務は国内に偏り、海外展開する力に乏しいです。またカナダの平均寿命は81歳と高く、日本と同様に「高齢化」による社会保障費の増大も課題です。非営利法人グローバルリスク研究所のマイケル・マイラ代表は「消費税の引き上げで対応するという日本を研究したい」と話しますが、日本の「いつか来た道」をカナダがたどる可能性は少なくないでしょう。

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