毎日新聞 9月5日(水)
景気が減速する中国で、地方政府が大型の景気対策を相次ぎ打ち出しています。地方政府の投資意欲は旺盛で、08年のリーマン・ショック後に行われた4兆元(約52兆円)の景気対策にちなんで、「地方版4兆元」と呼ばれています。大型の景気対策に及び腰の中央政府に代わり、地方政府が動き出した形だが資金的な裏付けがない計画も多く、実現性を疑問視する声も上がっています。
「(省、市)政府、銀行、企業がウインウイン(双方に利益がある)の発展目標を実現しよう」--。中国内陸部、湖南省の共産党幹部は今年7月、省都の長沙市に総額8292億元(約11兆円)を投資する計画を発表し、企業や金融機関に投資を呼びかけた。同市内で空港の拡張や都市交通整備などを実施する計画です。
同じ内陸部の貴州省も7月、3兆元(約39兆円)前後を交通インフラなどに投資すると発表しました。重慶市も8月、1兆5000億元(約19兆5000億円)の産業投資を発表したほか、広東省も海洋関連産業に1兆元(約13兆円)超を投資する計画を発表しました。
また、天津市は1兆5000億元のエコ産業投資、広東省広州市は2000億元(約2兆6000億円)超の交通整備計画--と、地方政府の大型投資計画の発表はとどまることがありません。
欧州債務危機の影響による輸出鈍化などで、中国の今年4~6月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は7.6%と、約3年ぶりに8%の大台を割り込んだ。景気減速が続く中、大型の景気刺激策を求める声が高まっていますが、中国政府はかつての4兆元の景気対策が不動産バブルやインフレを招いた教訓から、大型の財政支出には慎重な姿勢を崩していません。そのため、業を煮やした地方政府が独自に動いた格好です。
しかし、景気減速の影響で今年1~7月の地方政府の財政収入は前年同期比13.8%増と、伸び率は前年同期(34.9%増)と比べ大きく鈍化しました。一部の信用力が高い地方政府を除き、地方債の独自発行も禁じられているため、投資の資金計画はほとんどが金融機関の融資頼みとなっています。ところが、4兆元の景気対策で地方政府の債務残高の総額は10兆元(約130兆円、10年末)超に拡大しました。「採算性の低いプロジェクトも多い」(邦銀関係者)ため、金融機関も無理に融資すれば不良債権を増やしてしまう恐れもあります。このため「かけ声倒れに終わる可能性もあり、過度の期待は禁物」(日系商社幹部)と冷めた見方も少なくないのです。