あえて湾岸マンション

nikkei TRENDYnet 6月9日(木)

震災の影響で一時は住宅市場も販売の自粛などが見られましたが、「通常営業」に戻りつつある現在、震災前と比べて購入検討者の志向には変化の兆しも見られるようです。

震災の影響で一時は住宅市場も販売の自粛などが見られましたが、ここへきて「通常営業」に戻りつつあるようです。そんななか、震災前と比べて購入検討者の志向には変化の兆しも見られるようです。

災害や停電のリスクを回避するために、人々は動き出しています。

不動産経済研究所の発表によると、首都圏での2011年4月の新築マンション発売戸数は前年同月比27.3%減の3214戸と、「当初予想どおり」大幅な落ち込みとなりました。理由はむろん、震災による販売の自粛です。直接被害を受けた一部地域だけでなく、計画停電の影響や全体的な自粛色の強まりから販売活動を控える動きが広がりました。特に東京都下エリアは4月の発売戸数がわずか63戸と、前年同月(278戸)比で8割近い激減ぶりです。

だが、その後の立ち直りは意外なほど早かったと言っていいでしょう。

マンション商戦の一つのヤマ場であるゴールデンウイーク(GW)の集客を目指し、4月中旬以降は各地のモデルルームで販売を本格的に再開する動きが広がりました。その結果、東京都区部エリアの4月の発売戸数は前年同月(1380戸)比1割減の1242戸、神奈川県は逆に同15.4%増えて557戸となっています。同研究所では5月の発売戸数を同45.5%増の5500戸と見込んでいます。

震災の影響を判断する材料として、契約率と在庫数、GWの初動の3点が注目されていました。4月の首都圏の契約率は前年より若干下がりましたが、76%と高水準でした。販売在庫数は4535戸で前月より181戸減っています。さらにGWの販売では各社とも集客が戻ってきている状況です。

資材や人手の不足による工期の遅れが懸念材料として残りますが、すでに震災の影響は脱したと見ていいでしょう。

近畿圏はさらに震災の影響が限定的で、5月以降は大阪市内でのタワー物件販売の活発化などから供給が増加基調となっています。

一方、震災により、住宅市場ではこれまでの「常識」が変わるのではないかとの見方も出ています。

つまり、「新築の供給が抑えられ、代わって中古が売れるのではないか」「津波や液状化の被害を避けるため、湾岸部から内陸部へのシフトが起こるのではないか」「帰宅難民のリスクを避けるため、勤務地に近い都心のニーズが高まるのではないか」「建物被害が大きかった一戸建てからマンションに住み替える人が増えるのではないか」「停電でエレベーターが停止する可能性を考え、高層マンションから低層住宅へ移る動きが広がるのではないか」といった、いずれもそれなりに説得力のありそうな予測です。

まず新築か中古かという問題ですが、前述のようにマンションに関してはすでに新築物件の供給が回復しつつあるといえます。湾岸エリアなど一部で大規模マンションの供給計画に見直しの動きも出ているようですが、「市場全体に占める比率はごくわずかであり、影響は限られる」(福田氏)とする見方も少なくありません。

一方、中古物件の売れ行きに関しては、今のところデータ上はハッキリとした回復傾向は見られていないようです。

東日本レインズの集計によると、4月は中古マンション・一戸建てとも成約件数の減少率が震災直後の3月より縮小しているものの、どちらも2ケタの減少でした。

中古市場は新築のようにGWが商戦の山というわけではなく、むしろ連休明けから夏休み前までの5月~6月にキャンペーンを打つのが通常です。5月の成約実績は前年同月を上回り、中古市場の底堅い需要を感じられましたが、この先マーケットがどう動いていくのかを判断するのはこれからでしょう。

エリア間の動きはどうでしょうか。

まず一部エリアが甚大な被害を受けた湾岸部を避け、内陸部、それもより地盤が強固と考えられる東京都下で家を探す人の姿は、物件によってはたしかに見られたようです。不動産経済研究所が発表した4月の契約率でも、都下は95%強と飛び抜けて高い数値となっています。

しかしながら、都下での新築マンション供給が4月は極端に減少してしまったために、そうした動きが大きな流れにまでなっているかどうかは確認できていません。湾岸部が多く含まれる千葉県でも9割近い契約率となっている現状を見ると、東から西へという一方通行の動きではないように思えます。

中古市場ではむしろ、価格が下がった湾岸エリアの物件をあえて選ぶ動きも見られるといいます。新浦安でも水道やガスなどのインフラが復旧するにしたがって、改めて地震による被害がごくわずかだったマンションなどを購入するケースも出てきています。震災の影響で相場が下落しているとすれば、むしろ『買い』だろうとの判断でしょう。

また、今回の震災で大量の帰宅難民が発生したことが、エリア選びにも少なからず影響しています。計画停電が一部に限られた23区内に家を買うことで、いざというときに職場のある都心から歩いて帰れるようにしたいとの考え方ですね。

実際、新築マンションの販売現場でも、そうした考えの購入検討者が見られるといいいます。特に安全性にこだわるシングル女性に、23区志向が強まっているようです。一方でコンパクトタイプの物件や6000万円以上の価格帯は投資やセカンドハウス的な要素が強まるため、『不要不急』な買い物として控えられる傾向は今も続いているようです。

マンションか一戸建てかという選択肢に関しても両論あります。よく聞かれるのは、「被害ほとんどなかったマンションの安全性が見直された」というものです。

実際に、液状化の被害を受けたエリアでも、支持層と呼ばれる地下深くの固い地盤まで杭を打っているマンションの建物は深刻なダメージをほとんど受けていません。軽微なひび割れやタイルのはがれが発生するケースが一部で見られる程度だったのです。建物の傾きや沈下が多数発生した一戸建てとは状況が大きく異なります。

これらのエリアでは新築の供給はマンション・一戸建てとも低調ですが、中古については前述のようにマンションの売買が一部で回復しつつあるという声も聞かれました。

停電に関してはマンションの脆弱性が浮き彫りになった面はあります。なにしろ電力供給がストップすればエレベーターが止まり、水の供給にも支障が出てしまうのです。原則として高さ31mを超える建物には非常用エレベーターの設置が義務づけられていますが、あくまで消防活動用のもので、長期間の停電を想定したものではありません。マンションの高層階に住んでいた人が、揺れが大きかったこともあって、低層階や一戸建てに住み替えを希望するケースも一部で見られるようです。

とはいえ、多くのマンションでは管理組合の理事会に防災担当者が置かれ、非常時には組織的な対応が期待できます。大規模な物件では管理会社や警備会社の担当者が24時間常駐するケースもあり、防災のプロによる支援も受蹴ることが可能でしょう。昨今では非常用の飲料水や防災用品を備蓄するマンションも見られます。基本的に個人が自力で対応しなければならない一戸建てと比べて、マンションの安全性が著しく劣るというわけではないように思えます。

このほか、一部では「持ち家より賃貸が安心」との考え方も聞かれます。地震で持ち家が被害にあうことで、財産が大きく損なわれるリスクを回避しようという発想です。損失の一部は地震保険でカバーできるとはいうものの、契約できる保険金の上限は火災保険の50%までで、すべての損害を取り戻せるわけでなありません。この点に関しては、一般的に賃貸住宅に比べて分譲住宅は構造や仕様のレベルが高く、地震の際の安心感も高まります。マンションのモデルルーム来場者の中にも、『賃貸は不安』との声もいくつか聞かれました。

震災から3カ月が経ち、住宅市場も落ち着きを取り戻しつつあります。震災前と比べて災害や節電への対策を重視する動きは供給側にも購入側にも強まりました。「中古か新築か」「都心か郊外か」「マンションか一戸建てか」といった二者択一的な見方も少なからず聞こえてきますが、今のところどちらか一方に大きく偏る動きにはなっていないようです。

むしろ住宅市場にとって憂慮すべきなのは、震災が与える経済への影響と、復興財源確保のための消費税引き上げという『人災』」なのかもしれません。

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