毎日新聞 2月20日(日)
G20が不均衡是正に取り組むのは、2008年秋のリーマン・ショックの反省からです。米国は借金を膨らませて過剰に消費し、中国や日本は対米輸出で稼いできたました。そこで、米国は経常赤字、中国や日本は経常黒字が拡大しましたたが、米国の借金体質が行き詰まり、リーマン・ショックを引き起こしました。このため、各国の過剰な経常赤字や黒字など不均衡の拡大を早期に是正し、危機を防ぐ枠組み構築を目指しています。
今回のG20では、不均衡を判断するため、参考指針にどのような経済指標を組み込むかを議論。議長国のフランスが提示した経常収支や為替水準、外貨準備などの指標について、ほとんどの国は理解を示しました。
ところが、中国は一部の指標に反対しました。高成長を続ける中国ですが、輸出が有利になるよう為替介入で人民元相場を低く抑え、介入による元売り・ドル買いで外貨準備も急速に膨らんでいます。指標をそのまま受け入れれば、人民元切り上げ圧力が一段と強まりかねませんから、中国も必死になりますね。
一方、経常黒字幅の大きい日本は「議論を前進させるのが大事」と合意に前向きな姿勢を示しました。経常黒字国のドイツも「すべての指標を採用すべきだ」と主張しました。円やユーロは、人民元と異なり、基本的に相場形成を市場に委ねています。為替水準なども参考指針にすれば、「不均衡をもたらしている」と判断されない可能性が高いと判断したのでしょう。
なるほど、この戦略は悪くないかもしれません。
中国は昨年のGDPで日本を抜き、米国に次ぐ「世界2位の経済大国」になりましたね。米国は中国に「経済力に見合う責任」を求めています。今回のG20開催前に、ガイトナー米財務長官がブラジルを訪問し、中国に元相場の柔軟化を求めることで協力を促すなど、中国への包囲網づくりに躍起です。
今回のG20では中国の孤立化の様相が強まりました。そこで、中国は協調を優先して、歩み寄りの姿勢を示したとみられますが、外圧が強まるほど、中国は態度を硬化させる可能性があります。中国は「元の上昇ペースは中国政府が決定する。他国の圧力には屈しない」との姿勢を崩していません。
リーマン・ショック後の世界経済は、危機後の景気回復が遅れる先進国と、高成長を続ける中国やインドなど新興国との格差が鮮明となっています。景気テコ入れを図る先進国は米国を筆頭に大規模な金融緩和を続けていますが、これが「カネ余り」を招き、もうけが見込める新興国に巨額の資金が流入していることは、よく知られた事実ですね。
昨年2010年夏以降の米国の追加金融緩和と新興国への資金流入は、ドル安と新興国通貨の上昇を招きました。そこで新興国は為替介入で対抗しました。いわゆる「通貨安競争」ですね。新興国ではインフレ圧力や不動産バブルの懸念も強くあります。
中国などは「米国などの金融緩和がインフレの要因」と批判していますが、これは一理あります。
商品市場への資金流入は、食料価格を押し上げる要因となっています。これも、新興国のインフレ圧力をさらに高めています。ブラジルなど新興国はすでに海外からの資金流入への課税やインフレ抑制の利上げに動いており、今回のG20では過度の資金流入への規制の在り方が議題となり、新興国に一定の規制を容認する方向で議論が進みましたね。
世界経済をけん引する新興国でのインフレやバブルは、世界経済に悪影響を及ぼしかねません。
ただ、資金流入への規制の容認は、あくまで「柔軟な為替相場を維持する」のが条件です。ここでも人民元相場を管理する中国への包囲網が築かれつつあります。
低成長にとどまる先進国としては、過度な資金流入への一定の規制を容認しても、金融緩和は「自分の経済の安定を図るために必要な政策」と考えられています。金融緩和自体をおいそれとやめるわけにもいきません。FRBのバーナンキ議長は2月18日のパリでの講演で「自由な資本移動で(新興国)経済は相当な利益を受けている」と新興国からの批判に反論しました。
不均衡是正は、まったく進んでいるように思えませんね。
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